メニュー

感染症の急速な拡大を防ぐ「社会距離戦略」(Social Distancing)のエビデンス紹介

新型インフルエンザウイルス(H1N1)や新型コロナウイルス(2019-nCoV)といった感染力の強いパンデミックを起こすような感染症の急速な拡大を防ぐ社会的な方策として、「社会距離戦略」(Social Distancing)が注目されています。
 米国CDC(アメリカ疾病予防管理センター)ではSocial Distancingに関する50の論文をレビューした総説論文(正式版は2020年5月に出版予定のもの)をCDC公式サイトで先行無償公開しています。

上記論文では世界各国でのsocial distanceに関する諸研究を系統的にまとめており18番目には代表理事の宮木教授の論文が紹介され、社員の家族が罹患した際に給与補償して自宅待機を依頼することで、社員全体の感染率が有意に下がることを示したエビデンスとなっています。
 こちらも論文全文が無償公開されております。
 論文は英文のみのため、著者による日本語訳(抄訳)を寄稿いただきましたので職場での感染拡大予防のご参考になれば幸いです。


職場でのH1N1インフルエンザ発症率を低減させる有効な隔離方策

An Effective Quarantine Measure Reduced the Total Incidence of Influenza A H1N1 in the Workplace: Another Way to Control the H1N1 Flu Pandemic.
(職場でのH1N1インフルエンザ発症率を低減させる有効な隔離方策:インフルエンザ流行を制御するもう一つの方法)

<日本語抄録>
 企業が給与保障をした上で自宅待機を命じることの感染拡大防止への影響について、同時期に系列企業内の対象群を用いて定量的な検証を行った。
対象集団は国内1府6県に事業所を擁する製造会社の健康診断受診者6537人で対象群は自宅待機措置を実施しなかった同一業種企業の健康診断受診者3400人。
介入および追跡期間は2009年5月から半年間で、解析方法は自宅待機措置を採った事業所と採らなかった事業所での累積罹患率比(RR)を求め、自宅待機措置により感染率を有意に減少させるという帰無仮説をフィッシャーの正確検定で検討した。
自宅待機の適応となった318人のうち9人が発症したが、残りの6219人のうち35人(0.56%)が発症した。
一方、自宅待機措置を取らなかったコントロール事業所では3400名中30人(0.89%)の発症を認め、有意水準5%の片側検定でRR=0.638(p=0.048)と有意なリスク減少を認めた。
待機者を含めた発症率は0.67%となり、有意ではないがRR=0.763(p=0.154)と約25%のリスク減少を示した。
表1

図と表2

表3