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リオムメンタルクリニックと「社会的処方」とは

社会的処方実践ヘルスセンターとしてのリオムメンタルクリニック

従来は障害当事者やご家族からの個別相談には対応しておりませんでしたが、このたび医療機関設立の実績豊富な東邦薬品様にご協力いただき、複数の専門家が薬だけに頼らない「社会的処方」を重視し、当事者やその関係者を総合的にサポートする診療拠点を大阪に開設する運びとなりました。

RIOMHの就労支援活動の経験を活かし、障害といえないレベルの発達障害(ADHDや自閉スペクトラム症など)を含め、単に病気を治療するだけでなく病気とはいえない段階から「予防」の観点を大切に、学校や職場で本来の力を発揮しやすくなるような環境調整を並行して試みるところが、この医療機関「リオムメンタルクリニック」の特徴の一つです。
 複数の専門家が医療・産業保健・福祉の垣根を取り払った総合的な助言を行うことで、つらさの軽減と社会生活の円滑化を図り、ご自身や家族の問題解決に役立てれば幸いです。

リオムメンタルクリニック建設用地

場所は大阪メトロ中央線深江橋駅徒歩3分(大阪市城東区)で、大阪都心や奈良からもアクセスのよい地で建設が進められています。こちらは医院建築に定評のある三菱地所ホーム様による設計・施行で、福祉のまちづくり条例やハートビル法(「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」)に準拠した、バリアフリーな医療機関として工事が進められ、2020年12月に予定通り完成しました。

関係当局への届け出と保健所の実査等が無事終わり、2021年(令和3年)1月より保険診療を開始できる運びとなりましたことを関係各位に感謝申し上げます。

 詳細はこちらのホームページを参照ください。
<社会的処方とは?>

代表理事の宮木医師が、診療や産業医面談をするときに心掛けていることの一つに「社会的処方」Social Prescribingがあります。英国では社会的孤立が大きな問題となっていて、2018年に「孤独担当大臣」が新設されたというニュースをご記憶の方もいると思いますが、その英国で注目されているのがこの社会的処方です。

イギリスの地域医療を担うかかりつけ医(General Practitioner, 一般家庭医やGPと呼ばれます)は、患者さんの健康や幸福度well-beingの向上のために医学的処方に加えて、患者さんを地域の活動や公的サービスに繋ぐ社会的処方の取組みを行う医師が増えつつあります(2018年の統計データでは4人に1人のGPが実践中)。例えばメンタル不調の方がいたとすると、抗うつ薬や抗不安薬を処方する代わりに(あるいはそれと同時に)地域の交流イベントや運動サークルといった活動を紹介します。患者さんがこうした活動に参加し続けることで「孤独感」が緩和され、間接的に症状改善や幸福度(well-being、カタカナでウェルビーイングということもあります)が向上することが期待されます。またこうした症状軽減により通院回数が減少し、医師の負担軽減や医療費の削減にも繋がるとされていて、注目されています。

既存の医療の枠組みでは解決が難しい問題に対して、薬を処方するだけでなく「社会的な繋がり」を処方することで社会的孤立を解消し、問題解決を図るという考え方で、「コミュニティ内の非医療的サポート資源と患者をつなぐメカニズム」と宮木教授は訳しています。
 この概念を日本語で紹介した本がなかったのですが、北海道大学の緩和ケアの先生が各地での取り組みをまとめた本が出版されていますので、ご関心のある方は参考にしてください。(日本でもこうした社会的な繋がりや孤立の解消に注目した取り組みが広がりつつあることを、知ってもらえればうれしいです。)

社会的処方:孤立という病を地域のつながりで治す方法

この「社会的処方」のパイオニアとされているのがロンドン東部にあるBromley by Bow Centreで、地域住民のQOL(Quality of Life、生活の質とも訳されます)改善や地域再生のための拠点として、1980年代に教会の建物が地域に開放されました。その敷地や建物がコミュニティセンターに転換され、託児所やダンススクール、コミュニティカフェ、アトリエなどが作られてワークショップも開催されるようになり、地域コミュニティの再生モデルとして注目されるようになったといいます。
 その後も家族を支援する取り組みや、芸術・教育に関するプロジェクトが追加されていき、90年代後半にはヘルスセンターが開設されて医師による医療サービスも提供されるようになり、今日の「社会的処方」の原点となったのです。

人々の健康や慢性疾患の自己管理能力は、「健康の社会的決定要因」Social Determinants of Health(SDHとも略されます)と呼ばれる所得水準や社会との繋がりの度合いといった社会的要因によって影響を受けることが近年わかってきており、純粋に医学的な問題の寄与度合いは半分以下という研究さえあります。
 こうした問題に薬物療法だけを行っていては効果的な改善は望みにくいですし、先進国で問題化している「孤独」の問題は解決できません。国家レベルでは医療の効率化と医療費の節減という目的にも合致しています。こうした薬だけに頼らない医療は今後ますます必要になってくると思われます。

わたしたちリオムでも、メンタルヘルス診療や就労支援の領域でこの「社会的処方」を活用しつつあります。
 症状を緩和する薬を処方するだけではなく、医療・産業保健・社会福祉といった複数の専門家が知恵を絞り、医師や心理士といったメンタルヘルス専門家による精神面のサポートに加え、社会的グループへの参加、体を動かすことの勧奨ときっかけ作り、金銭面の相談や学習の手助けなど、総合的に健康とwell-beingの向上を目指すことが、イギリスだけでなく現代の日本でも有意義であると実感しています。

このたび大阪に診療拠点ができることで、今まで連携してきた大阪地域職業訓練センター(A´ワーク創造館)や非営利団体、各種患者会などと情報交換・環境調整を工夫することを通して困りごとを抱える方へのサポート充実が期待されますし、患者さんや関係者の治療や環境調整の選択肢が増えることに繋がりますので、日本の「社会的処方」実践のヘルスセンターの先駆けとして私たち「リオムメンタルクリニック」が地域のお役に立てるようになれればと関係者一同願っています。