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nCoV(新型コロナウイルス)感染症に関するコメント

日本時間の1月31日未明、WHOの緊急委員会Emergency CommitteeはnCoV(novel Coronavirus, 新型コロナウイルス)感染症について、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態PHEICに該当すると発表し、専門家の間でも話題になっています。
同じコロナウイルスであるSARSやMERSの集団発生は飛沫感染と接触感染で起きており、nCoVも同様と考えられます。(宮木が臨床疫学研究室長を務めていた国立国際医療研究センターの国際感染症センターによる公式見解

このような感染機序を踏まえ、手洗いやマスクの重要性は論を待ちませんが、マスクについては誤解されている方が多いようなので、衛生学公衆衛生学で博士号を取得し、産業衛生学では認定産業医の更新を法的に免除されている一医師の専門的立場からコメントしたいと思います。

現在市場に出回っているマスクが品薄となり、医療用サージカルマスクが高値で取引されるなど残念な事態になっていますが、結論から申し上げて、一般のマスクやサージカルマスクは感染者が感染を広げないためには有効ですが、非感染者の感染予防としては効果が十分とはいえません。
水分が蒸発する前のウイルスを含む唾液の粒子をトラップする効果はあるものの、ウイルス粒子自体はサージカルマスクを容易に通過して飛沫感染が成立するためで、医療用にはサージカルマスクの他に「N95」マスクというものがあり、治療等で濃厚接触が避けられない場合の予防目的にはこちらを用いることが望ましいです。

N95の規格は米国NIOSH(National Institute of Occupational Safety and Health、国際的なストレスモデルなどでも有名です)が定めた国際的な規格で、「N」は耐油性が無いこと(Not resistant to oil)、「95」は試験粒子を95%以上捕集できること(日本の法令では粒子捕集効率と呼びます)を表しています。
この性能は日本の国家検定では防じんマスクDS2相当なので、どうしても出張や人込みに出ざるを得ずマスクでなるべく予防したいときには、N95ないしはDS2規格以上のマスクを着用することを推奨します。
普通のマスクや医療用サージカルマスクに十分な予防効果は期待できないため(ガーゼの手作りマスクは感染拡大防止には有用ですが予防効果はさらに低いです)、マスクをしているからと安心しないで、手洗い(手指の消毒も有効)・うがい・咳エチケット(但し手ではふさがない)を心掛け、なるべく人込みを避けることが望ましいと思います。睡眠を良く取りバランスの良い食事を心がけることも免疫力を高め、一般的な感染症予防と同じく有意義です。

N95マスク例

因みに上記はN95マスクですが、弁がついているのは呼気(息を吐くこと)を楽にするためであって弁の有無はフィルターの性能と無関係であること、それからいくら高性能なマスクでもしっかりフィットさせないと(典型的には鼻の両脇に隙間ができてしまいます。N95マスクなのにあまり呼吸しづらくないときは要注意)マスクの性能が発揮されませんし、一般的なサージカルマスク等においてもフィッティングは大変重要です。
いろいろな情報が出回ることと思いますが、WHOやCDCなどの公的機関による情報を中心に正しい知識を持って、冷静に流行の終息を待ちましょう。
以上、私見ですが参考になれば幸いです。