🐕 犬の日コラム|里山発酵研究所(さとラボ)

犬の日・戌の日・ワンヘルス
犬と人と環境の「健康」を考える

高校生時代の宮木幸一医師と大型犬・保護犬
保護犬や大型犬と暮らしていた高校生時代の宮木教授と愛犬たち

毎年11月1日は(国際的には後述のように毎年8月26日が)「犬の日 National Dog Day」です。里山発酵研究所(さとラボ)を主宰する宮木幸一(医師・医学博士)は、保護犬を含む犬たちと暮らしてきた愛犬家でもあります。今回は、犬についての知識を深め、犬をかわいがる日とされる「犬の日」の由来と、医療の現場で子どもたちに寄り添う「ファシリティドッグ」についてご紹介し、近年世界的に注目されている「ワンヘルス One Health」の考え方についても解説します🐕

執筆者

宮木幸一博士

宮木幸一博士

犬との暮らしや、人と動物の関わりについても、研究と日々の実践の両面から考え発信しています。
犬と健康についてのYouTube動画ファシリティドッグについてのYouTube動画、絶滅危惧種トキの本土放鳥についてのYouTube動画なども、あわせてご覧ください。

01|犬の日とは──11月1日に込められた意味

「犬の日」は1987年(昭和62年)、当時のペットフード工業会(現・一般社団法人ペットフード協会)などによって制定された記念日です。

由来は、犬の鳴き声「ワン」を数字の「1」に見立てた語呂合わせです。11月1日は「ワン・ワン・ワン」と読める、1が並ぶ日。犬について正しい知識を身につけ、犬をかわいがる日とされています。

02|世界の「犬の日」いろいろ

犬に関する記念日は、国や地域によって日付も由来も異なります。日本の「犬の日」が11月1日であるのに対し、アメリカでは毎年8月26日がNational Dog Day(ナショナル・ドッグ・デー)とされています。

National Dog Dayは、犬が日々もたらしてくれる愛情や働きに感謝するとともに、保護・譲渡を必要とする犬たちに目を向ける日です。犬種、年齢、出自にかかわらず、すべての犬を尊重し、責任ある飼育や譲渡の重要性を知る機会でもあります。

宮木医師の愛犬
犬の日は、犬への感謝と、責任ある飼育・動物福祉について考える機会でもあります。

日本に受け継がれる、もう一つの「いぬの日」

02-2|戌の日とは──安産を願う「帯祝い」の伝統

日本には、11月1日の「犬の日」とは別に、妊娠と深く結びついた「戌(いぬ)の日」があります。戌の日とは、暦の十二支のうち「戌」に当たる日で、十二支が12日ごとに巡ることから、12日に一度訪れます。

この日に行われる代表的な習わしが、母子の健康と無事の出産を願う安産祈願です。日本では古くから、妊娠5か月目に入った最初の戌の日を目安に腹帯を巻き、神社などに参拝して安産を願う「帯祝い(着帯祝い)」が親しまれてきました。

🐕 なぜ「戌」の日なの?

戌は犬を表します。犬は一度に複数の子を産み、比較的お産が軽いと考えられてきたことから、古くより安産・多産の象徴として親しまれてきました。その姿にあやかり、妊婦さんと赤ちゃんの健やかさを願って戌の日が選ばれたと伝えられています。

🎗 腹帯に込められた願い

腹帯は「岩田帯(いわたおび)」とも呼ばれます。大きくなってきたお腹を支えるとともに、岩のように丈夫な子どもが生まれるようにという願いが重ねられてきました。参拝日は体調、天候、移動の負担を第一に、無理のない日程を選びましょう。

参考:水天宮「戌の日について」安江八幡宮・金沢水天宮「安産祈願」

03|犬と暮らすことと心の健康

犬をはじめとする動物との触れ合いが、人の心身に及ぼす影響は、動物介在介入(Animal-Assisted Intervention:AAI)として研究が進められている分野です。とくに、慣れない環境で治療を受ける入院中の子どもを対象に、犬との短時間の交流がストレスや不安にどう影響するかを調べた研究が、いくつか報告されています。

入院中の子どもとAAI(動物介在介入)に関する主な研究
研究対象・方法主な結果留意点
Jennings et al., 2021
ランダム化比較試験
米国の小児急性期病棟(ICU・血液腫瘍科など)に入院した2〜19歳の子ども80人。セラピードッグとの5〜10分間の交流群と対照群を比較。交流後、対照群と比べて唾液中コルチゾール値の低下、気分・活動性の向上がみられた。単一施設・短時間介入の効果。長期的な効果は未検証。
Barker et al., 2015
ランダム化比較試験
米国の小児病棟に入院した8〜18歳の子ども40人。動物介在介入群と、年齢相応のパズルに取り組む対照群を比較。介入後の不安スコアは、対照群よりAAI群で低かった。群内での介入前後の変化(痛み・不安とも)は統計的に有意ではなく、効果は「群間の差」として検出されたもの。愛着スタイルなど個人差の影響も示唆される。
Correale et al., 2022
システマティックレビュー
小児医療機関でのAAIに関する複数の研究を、PRISMAに準拠して系統的にレビュー。対象研究はいずれも犬を用いたもの。不安や行動面のストレス、覚醒に関連する生理指標の改善につながる可能性が示された。レビュー自体が「今後さらに厳密な研究が必要」と結論づけている。

※研究デザインや評価指標は研究ごとに異なります。上表は各論文の要旨等をもとに本コラムで作成した概要です。

大型犬をかわいがる宮木教授

04|ファシリティドッグとは

ファシリティドッグとは、病院・学校・裁判所・福祉施設など、特定の施設で活動するために専門的な訓練を受けた犬です。

とくに医療ファシリティドッグは、ハンドラーと呼ばれる専門職や医療スタッフとチームを組み、入院・治療中の患者さんとご家族に寄り添います。犬が単独で活動するのではなく、衛生・安全面に配慮し、医療チームの一員として活動する点が大切な特徴です。

子どもたちとふれあうだけでなく、採血や点滴、検査、手術室への付き添い、リハビリテーションの応援など、治療に向き合う場面に寄り添うことがあります。

項目セラピードッグファシリティドッグ
主な活動場所複数の施設を訪問して活動特定の病院・学校などに勤務
活動の形ふれあいや交流活動が中心施設の方針・専門職との連携のもとで活動
役割交流、安らぎ、気分転換など治療・生活・心理的支援の場面にチームの一員として寄り添う

※上表は公開情報をもとに本コラムで整理した概要です。活動内容や運用は、犬・施設・プログラムごとに異なります。

05|日本での歩みと今

日本では2010年1月、ゴールデン・レトリーバーの「ベイリー」が静岡県立こども病院で活動を始めたことが、国内のホスピタル・ファシリティドッグ・プログラムの出発点となりました。

ベイリーは2012年に神奈川県立こども医療センターへ活動の場を移し、2018年に引退しました。神奈川県立こども医療センターでは、ベイリーの後を継いだ2代目の「アニー」が活動しています。一方、静岡県立こども病院でも、ベイリーの後任として「ヨギ」が2012年から2021年までの9年間活動しました。

認定NPO法人シャイン・オン・キッズは、国際的な介助犬基準に基づく専門訓練を経た犬と、臨床経験を持つ医療従事者であるクリニシャン・ハンドラーがペアを組むプログラムを展開しています。

🌏 人・動物・環境を、切り離さずに考える

05-2|ワンヘルス──犬と人と環境の健康はつながっている

ワンヘルス(One Health)は、人の健康、動物の健康、植物の健康、環境・生態系の健全性を別々に扱うのではなく、相互につながるものとして統合的に守ろうとする国際的な考え方です。

“One Health is an integrated, unifying approach that aims to sustainably balance and optimize the health of people, animals and ecosystems.”

— World Health Organization (WHO)

宮木幸一博士による訳

「ワンヘルスとは、人・動物・生態系の健康を別々に考えるのではなく、それらを一体として捉え、持続可能なかたちで調和させ、より良い状態を目指していく考え方」

ワンヘルスとは、人、動物、そして生態系の健康は相互に深く関係しているという認識に立ち、専門分野の垣根を越えて協働し、それらを一体として持続可能なかたちでより良い状態にしていこうとする考え方です。

人と犬が健康に暮らすことは、犬だけの問題でも、人だけの問題でもありません。感染症、薬剤耐性、食品安全、環境、災害、生物多様性など、私たちを取り巻く生態系全体の健康とつながっています。

ワンヘルスの概念図。人の健康、動物の健康、環境・生態系の健康が相互につながることを示すインフォグラフィック
ワンヘルスの概念図:人・動物・環境の健康は、互いに影響し合っています。人獣共通感染症、薬剤耐性(AMR)、食品安全、気候変動・生物多様性などの課題には、分野を越えた協働が必要です。出典:WHO, One Health Joint Plan of Action/WHO One Health factsheet

宮木幸一博士の解説

「ワンヘルスは、決して21世紀になって突然生まれた新しい考え方ではありません。人の健康と動物の健康には深いつながりがあるという認識は、19世紀から存在していました。それが20世紀には『One Medicine』という考え方へ発展し、2004年のマンハッタン原則を契機として、人・動物・野生動物・生態系を一体として捉える『One Health』へと発展しました。そして現在では、感染症だけでなく、薬剤耐性、食品安全、気候変動、生物多様性、環境問題までを含めて、持続可能な社会の健康を考える枠組みとなっています。」

「犬は、人と動物と環境をつなぐ身近な存在です。だからこそ、犬の健康を考えることは、人の健康を考えることでもあり、さらに私たちが暮らす地域の環境や生態系を考えることにもつながります。」

🧑 人の健康

感染症の予防・治療、薬剤耐性(AMR)対策、食品安全、心身の健康、災害時の健康支援。

🐕 動物の健康

伴侶動物・家畜・野生動物の健康、適切な獣医療、動物福祉、ワクチン、寄生虫予防。

🌿 環境の健康

水・土壌・空気、生物多様性、気候、野生動物の生息環境、持続可能な食と地域環境。

ワンヘルスの歩み──「人の病気だけ」を見ない医学へ

ルドルフ・ウィルヒョウ

ドイツの病理学者ルドルフ・ウィルヒョウは、人の病気を動物の病気から切り離して理解できないことに注目し、人獣共通感染症(zoonosis)という考え方の発展に重要な役割を果たしました。人医学と獣医学の知識を結びつける必要性が、ここに示されています。

ジェームズ・H・スティールとCDC

米国CDCでは、獣医師ジェームズ・H・スティールがVeterinary Public Health Division(獣医公衆衛生部門)を創設しました。これは、「動物の健康を守ることは、人間の公衆衛生を守ることでもある」という考え方を制度として実践した重要な一歩でした。

カルビン・シュワーベと「One Medicine」

獣医師・公衆衛生学者カルビン・シュワーベは、1964年の著作で人医学と獣医学の協働を論じ、1984年の『Veterinary Medicine and Human Health』第3版で「One Medicine」を明確に展開しました。現代のワンヘルスにつながる重要な学術的基盤です。

「One World, One Health」とマンハッタン原則

米国ニューヨークでの国際シンポジウムを契機に、「One World, One Health」の枠組みとマンハッタン原則が示されました。人、家畜、野生動物の健康と、生物多様性・生態系の健全性を結びつけた点が大きな転換点です。

米国医師会(AMA)の決議

AMAの代議員会は、人医学と獣医学の連携強化を求めるワンヘルス決議を全会一致で採択しました。ワンヘルスが獣医学だけでなく、医学界の重要な課題として明確に位置付けられた出来事です。

医学・公衆衛生ではどう実践されている?

医学の世界でワンヘルスは、獣医学だけの課題ではありません。医師、獣医師、看護職、薬剤師、臨床検査技師、保健師、感染管理担当者、疫学者、環境研究者、行政、企業、市民が連携する実践原理です。人獣共通感染症、新興感染症、薬剤耐性、食品安全、気候変動と健康の関係などが代表的なテーマです。

能登の里山里海と、日本の伝統的酒造りへ

ワンヘルスの視点は、里山里海の保全や、日本の発酵文化にもつながります。里山発酵研究所が扱う能登米は、水田を潤す水、土を守る里山、日本海、生物多様性、農業に携わる人びとの知恵と時間の重なりのなかで育まれます。

米、麹、水、つくり手の技が重なって甘酒や麹調味料が生まれる背景には、自然環境と地域の暮らしの循環があります。能登の里山里海を守ることは、地域の食文化や伝統的酒造りを将来へつなぐことでもあります。震災からの復興においても、農地、水路、ため池、生業、担い手、文化を一体として再生していくことが、ワンヘルスと響き合う「創造的復興」の視点になります。

犬との暮らしに引き寄せると、適切なワクチン・寄生虫予防、健康診断、排泄物の適切な処理、抗菌薬の適正使用、災害時の備えは、犬、家族、地域、環境の健康を同時に守る行動です。セラピー犬やファシリティドッグの活動でも、患者さんへの支援だけでなく、犬の休息、衛生管理、感染対策、専門職との連携を大切にします。

参考:WHO|One Health Joint Plan of ActionCDC|One Health History里山発酵研究所|能登米の一杯から、里山里海へ

06|宮木博士より

宮木幸一医師は、医師・医学博士であるとともに、世界的な愛犬団体である「国際畜犬連盟(FCI:Fédération Cynologique Internationale)」の加盟団体「ジャパンケネルクラブ(JKC:Japan Kennel Club)」の愛犬飼育管理士でもあります。幼少期から犬たちのいる環境で生活し、保護犬を含めて6頭以上の犬と暮らしてきた経験をもちます。

麹や発酵食品の研究をしていると、目に見えない小さな菌が、静かに、しかし確かに人の暮らしを支えていることに気づかされます。

犬もまた、言葉こそ話しませんが、そばにいるだけで人の心を支えてくれる存在です。愛犬と暮らす日々のなかで、そのことを何度も実感してきました。

犬の日をきっかけに、身近な動物との関わり、そしてすべての命が安心して暮らせる社会について、あらためて考えていただければ幸いです。

宮木医師の愛犬との暮らし
犬との暮らしは、日々の健康管理と責任、そして信頼関係の積み重ねです。

宮木幸一医師の犬動画|フル解説・ショート動画

研究の視点から、犬と人の健康を考える

宮木医師の公式YouTubeチャンネルでは、犬の健康影響、ペットセラピー、セラピードッグ、ファシリティドッグについて、国内外の研究と実装上の課題を分かりやすく解説しています。下の動画サムネイルをクリックすると、YouTubeの動画ページを開けます。

🎬 フル動画 1|犬・ペットの健康影響

犬好き必見! 国内外の「ペットの健康影響」論文を解説

犬と人の健康影響を研究から解説の動画サムネイル▶ YouTubeでフル動画を見る

約16分22秒。犬・ペットとの関わりと、身体活動、ストレス、孤独感、心の健康などの関連を、RCT、系統的レビュー、メタ解析、コホート研究を手がかりに解説します。犬の飼育に伴う潜在的リスクと、観察研究の限界にも触れています。

おすすめ:ペットセラピーの根拠を確認したい方、医療・福祉・公衆衛生の関係者。

🎬 フル動画 2|ファシリティドッグ

ファシリティドッグとは? 歴史・エビデンス・日本の現状を解説

ファシリティドッグとはの動画サムネイル▶ YouTubeでフル動画を見る

約11分40秒。医療ファシリティドッグの歴史、セラピードッグとの違い、小児医療における役割、日本での導入状況を解説。患者さんのストレス・不安に関する研究、専門ハンドラーとのチーム活動、衛生・安全・普及の課題を学べます。

おすすめ:小児医療・看護・心理・福祉の関係者、病院でのAAI導入を検討する方。

宮木医師の愛犬
犬の表情や行動を尊重し、犬自身の健康と福祉を守ることも、人と犬のよい関係の基礎です。

📱 ショート動画|気になるテーマから見る

  • ▶ 犬好き必見:犬の健康影響を論文から解説──犬・ペットと健康の研究を短く紹介。RCT、メタ解析、コホート研究の読み方はフル動画1へ。
  • ▶ ファシリティドッグとは?──病院などの特定施設で専門職とチームを組む犬の基本を紹介。日本のファシリティドッグは米国の20分の1足らずしかいません!フル動画2で、セラピードッグとの違い、研究、安全管理を深掘りできます。

※動画で紹介する健康影響は、特定の条件下で実施された研究に基づく解説です。すべての人・犬に同様の効果を保証するものではありません。アレルギー、感染症、転倒・咬傷、飼育負担などにも配慮し、医療上の判断は主治医や専門職にご相談ください。

07|犬の日にできる、小さなアクション

  • 愛犬の食事、運動、健康状態をあらためて見直す
  • 避難先、フード、水、リード、常用薬など、ペット同行避難の備えを確認する
  • 保護犬・動物福祉団体の活動を知り、無理のない範囲で応援する
  • 犬が苦手な人や他の動物にも配慮し、地域で気持ちよく共生する
  • 犬と人の関わりを、信頼できる情報から学ぶ

犬への感謝を、日々の丁寧な世話と、すべての命を尊重する行動につなげていけたらと思います。

「里山発酵研究所」能登の発酵文化を伝える復興カフェを運営