里山発酵研究所(さとラボ)による麹のストーリーとエビデンス
麹は日本の国菌です  麹菌は、日本の発酵文化を1300年以上にわたり支えてきた「日本の国菌」です。
 米・麦などの素材に働きかけ、甘味、うま味、香りを引き出す発酵の力は、味噌、醤油、清酒をはじめとする豊かな食文化の礎となっています。

学名 Aspergillus oryzae の「オリザ」は稲に由来します。人と麹菌が共に育んできた、小さくも大きな生命の力を、次の世代へつないでいきます。


麹そのものの健康影響をまとめたインフォグラフィック

麹そのものの健康影響をまとめたインフォグラフィック
詳細な文献情報は下記「文献一覧」セクションをご覧下さい

麹作りの現場から

麹作りで部屋が重要な理由

麹作りでは、温度と湿度を細かく整えた麹室(むろ)が欠かせません。麹菌は生きものなので、環境がわずかに違うだけで、香りや甘み、うま味の出方が変わります。麹室は、麹菌が最も力を発揮できる環境を整えるための、静かな舞台です。

なぜ伝統的な製法を守るのか

効率的な機械化とは対照的に、昔ながらの薪や室(むろ)を使う製法には時間と手間がかかります。それでもあえて伝統的な方法を守るのは、自然の変化を受け止めながら、麹本来の個性と深みを引き出すためです。

出来上がりが毎回違うのはなぜ?

麹は自然と向き合うものづくりのため、毎回まったく同じにはなりません。気温や湿度、原料の状態によって仕上がりに違いが出ます。「完璧ではないけれど、それがまた良い」——その揺らぎこそが、麹らしさの一部です。

地域とつながる麹文化

麹作りは単なる製品づくりではありません。世代を超えた人々が集まり、伝統を共有し、楽しむ場所としての役割も担っています。地域の暮らしと結びつきながら、麹は今も日本の食文化の根幹を支えています。

Aspergillus oryzae (麹)

蒸し米で増えていく麹菌の肉眼写真  "Aspergillus oryzae (麹)" by Forrest O. is licensed under CC BY-SA 2.0

古典的資料での麹を仕込む様子麹を仕込む様子を描いた資料

参考動画:NHK WORLD-JAPAN「Through the Kitchen Window - Koji, the Magic Mold」

研究の読み方:層をまたいだ拡大解釈に注意

1

麹菌そのもの(遺伝子・酵素・安全性)

麹菌の性質そのものを理解する層。安全性、遺伝子、酵素、二次代謝産物など。

主役:麹菌(主に黄麹菌 Aspergillus oryzae

2

麹菌がつくる成分(糖・アミノ酸・ペプチド・有機酸)

発酵中につくられる多様な成分の作用を理解する層。オリゴ糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸、グルコシルセラミド、エルゴチオネインなど。

3

完成食品の摂取(甘酒・味噌・醤油)

麹菌を用いた完成食品を摂取した場合の作用を理解する層。原料・塩分・糖質・アルコール・加熱の有無や摂取量などが異なる食品として評価する。食品ごとに成分・製法・塩分/糖質・摂取量が異なるため、効果も異なる。

麹菌のゲノム解析

麹の顕微鏡写真
麹の顕微鏡写真

文献一覧

領域文献主な知見エビデンスの読み方
麹菌のゲノム・酵素生産能Machida M, et al. Nature. 2005;438:1157–1161.黄麹菌は、でんぷん・たんぱく質・糖質成分などを分解する多様な酵素遺伝子を持つことが示された。ヒトへの健康効果を示す研究ではなく、麹菌が食品の糖、アミノ酸、うま味成分を豊かにする生物学的基盤を示す。
麹菌の安全性:アフラトキシン関連遺伝子Tominaga M, et al. Appl. Environ. Microbiol. 2006;72:484–490.食品製造に使われる黄麹菌株では、アフラトキシン生合成に必要な遺伝子クラスターが不完全または機能しないことを検証した。黄麹菌の安全性を分子レベルで理解する重要な基礎研究。「すべてのカビが危険」という誤解を正す。
麹菌と近縁カビの区別Frisvad JC, Hubka V, Ezekiel CN, et al. Stud. Mycol. 2019;93:1–63.黄麹菌と、アフラトキシン産生菌を含む近縁種を含む分類群について、種の違いと近縁関係を整理した。「黄麹菌」と「食品に慣れ親しんだカビ」は同じではない。菌種・菌株の同定と種類の違いが食品安全の鍵となる。
発酵食品一般と腸内細菌・炎症Wastyk HC, et al. Cell. 2021;184:4137-4153.e14. DOI:10.1016/j.cell.2021.06.034健康な成人36人を対象に、高発酵食品食群で腸内細菌の多様性上昇と複数の炎症関連蛋白質低下がみられた(10週間の食事介入試験)。麹食品だけの試験ではなく、ヨーグルト、キムチ、コンブチャなどを含む複数の「発酵食品全般」の研究。麹菌固有の作用は示していない。
発酵大豆食品と死亡リスクKatagiri R, et al. BMJ. 2020;368:m34日本の成人92,915人を対象とした前向きコホート研究(追跡中央値14.8年)。納豆では総死亡リスク低下との関連が観察された。観察研究であり、因果関係は証明しない。食品ごとの違いや食習慣の癖があり、納豆だけの効果とはいえない。
発酵食品の総論Marco ML, et al. Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol. 2021;18:196-208.発酵食品の健康影響は、微生物、発酵代謝物、食品マトリクス、食事全体の要素を分けて考えることを提唱した。「発酵食品だから健康によい」と一様にはいえず、対象別のヒト試験が必要であることを示す。
黄麹菌の安全性評価EFSA BIOHAZ Panel. QPS list(最新更新)Aspergillus oryzae は、用途や菌株特性の蓄積を前提に、食品・飼料分野で長い利用実績をもつ微生物として評価対象となっている。QPSは健康効果を示す制度ではなく、安全性評価の枠組み。最終製品・菌株・毒素産生能を個別に確認する必要がある。

麹菌は、米や大豆などの原料を糖、アミノ酸、有機酸、ペプチドに変え、甘酒、味噌、醤油などの成分と風味を形づくる重要な発酵微生物です。麹菌の酵素生産能や、食品用菌株の安全性には確かな基礎研究があります。一方、麹菌そのものが便通、美容、免疫、生活習慣病予防などに与える効果を直接示した大規模・長期のヒト試験は、現時点では限られています。健康効果を考える際には、「麹菌」「麹菌がつくる成分」「麹菌を用いた完成食品」を区別し、食品ごとの研究結果を慎重に読むことが大切です。

麹そのものやそれが産生した酵素およびその発酵後産物が腸内環境改善を介して美容と健康に影響
麹そのものやそれが産生した酵素およびその発酵後産物が、腸内環境改善などを介して美容と健康に影響する模式図