世界農業遺産「能登の里山里海」の恵みと震災復興の現状
「能登はやさしや土までも」
「能登はやさしや土までも」は、能登の人びとの温かさとともに、草木や土を含む風土そのものにも、人を受け入れるような優しさがあることを表す言葉として受け継がれてきました。文献上は、江戸時代の紀行文『三日月の日記』に記された能登の杵歌にさかのぼるとされています。1
「女ばかりか草さえ菜さえ能登は優や土までも」
泉鏡花『河伯令嬢』より2
金沢出身の作家・泉鏡花は、『河伯令嬢』の中で、能登に伝わるこの言葉を踏まえ、女性だけでなく草や菜にまで能登の優しさを見いだすような一節を描きました。鏡花作品における能登は、ただの旅先ではなく、海・山・川・伝承・人の営みが重なり合う、豊かな物語の場所として描かれています2。
世界農業遺産「能登の里山里海」
「能登の里山里海」は2011年6月、国連食糧農業機関(FAO)により、世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage Systems: GIAHS)に認定されました。3
世界農業遺産は、過去の景観や遺構を保存するだけの制度ではありません。棚田やため池を活かす農業、豊かな生物多様性、海と山の恵みを生かす生業、祭りや食文化、そして現在も続く地域の暮らしを、将来へ引き継ぐことを目指します。3
能登米が育つ田は、米をつくる場であると同時に、水を蓄え、生きものを育み、集落の景観と生活を支える場所でもあります。米、麹、水、つくり手の技が重なってできる甘酒は、こうした里山里海の循環のなかにある食品です。
地震・豪雨からの復興の現状
2024年1月の能登半島地震は、農地の亀裂・沈下、農道や水路、ため池、農業施設の損壊など、地域の生産基盤に広い被害をもたらしました。同年9月の奥能登豪雨では、農地への土砂・流木の堆積や法面崩壊などが加わり、復旧の途上にさらなる困難が生じました。4
石川県の2026年5月22日公表資料によれば、奥能登4市町(輪島市・珠洲市・能登町・穴水町)では、農地・水路等の復旧と営農再開支援により、2026年度に2,200haで営農が再開される見込みです。これは地震前の営農面積のおよそ8割に当たります。4
一方で、大きな被害を受けた農地や水路の復旧、担い手の確保、避難により離れた農家の営農継続は、なお中長期的な課題です。奥能登営農復旧・復興センターでは、集落内の合意形成、営農継続・再開に向けた相談、スマート農業の普及などを通じて、地域の事情に寄り添った支援が進められています。4
復旧から、創造的復興へ
石川県は、被災前の状態に戻すだけではなく、能登らしい自然、文化、生業を次世代へつなぐ「創造的復興」を掲げています。農林水産業の再建、祭りや文化の継承、地域外から継続的に関わる人びと(関係人口)の拡大、里山里海の保全などを一体として進める考え方です。5
復興とは、道路や建物を直すことだけではありません。田に再び水を引き、米を育て、麹の技を受け継ぎ、地域で人が暮らし続けられる条件を整えることです。能登米を使った甘酒や麹調味料をお届けすることもまた、小さな取り組みではありますが、その歩みに寄り添う一つの方法だと考えています。
参考文献
- レファレンス協同データベース.「『能登はやさしや土までも』の出典について」.
- 泉鏡花.『河伯令嬢』.青空文庫.
- Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO).Noto's Satoyama and Satoumi.
- 石川県.「記者会見の要旨―令和8年5月22日」.2026年5月22日公表.
- 石川県.「石川県創造的復興プラン」.


